「高専って5年制の学校で、卒業したらそのまま就職するんでしょ?」
こういうイメージを持っている人がかなり多いように感じます。確かに高専は「実践的な技術者を育てる5年一貫の学校」として作られました。でも、実際の卒業生の進路を学校ごとに調べてみると、世間のイメージとはだいぶ違う実情が見えてきます。
今回は、首都圏の国公立3校——東京高専・木更津高専・都立産業技術高専——に、関西の明石高専を加えた4校の進路データを比較しながら、「5年で就職」というイメージが今の高専にどれくらい当てはまるのか、見ていきます。
まずは数字から:「5年で就職」は本当か?
各校の公式データをもとに、進学者と就職者の割合をまとめてみました。
| 高専 | 進学率 | 就職率 | 参照年度 |
|---|---|---|---|
| 東京高専 | 約40% | 約60% | 令和7年度 |
| 木更津高専 | 約52% | 約45% | 令和3年度 |
| 都立産技高専 | 約42% | 約58% | 令和5年度 |
| 明石高専 | 約64% | 約34% | 令和7年度 |
ここで気づくのは、「5年で卒業して就職する人」は、学校によっては半数以下だということ。木更津高専で約45%、明石高専に至っては約34%しか「5年で就職」していません。
つまり、高専生の過半数が「5年間で技術を身につけて、すぐ社会に出る」というルートを選んでいない学校もある、ということです。
東京高専:イメージに近い「半分くらいは就職する」学校
所在地:東京都八王子市/学科:機械・電気・電子・情報・物質の5学科
東京高専は本科卒業生の約4割が進学、約6割が就職。世間のイメージにいちばん近いのはこのバランスかもしれません。
進学先の内訳(令和7年度・70名)を見ると:
| 進学先 | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| 国公立大学 | 46名 | 約66% |
| 私立大学 | 2名 | 約3% |
| 高専専攻科 | 22名 | 約31% |
進学する人の中でも、3割は「専攻科」というルートを選んでいます。専攻科は高専の中に設置された2年間のコースで、ここに進むと卒業時の年齢は22歳。「5年で就職」のイメージはここですでに崩れます。
木更津高専:半分は進学、しかも専攻科ルートが多い
所在地:千葉県木更津市/学科:機械・電気電子・電子制御・情報・環境都市の5学科
木更津高専は進学者が約52%。学校全体の数字は画像形式で確認しづらいので、参考に情報工学科の進学先内訳を見ると:
| 進学先 | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| 国公立大学 | 8名 | 約36% |
| 私立大学 | 2名 | 約9% |
| 本校専攻科 | 12名 | 約55% |
注目したいのは専攻科進学者が過半数を占めていること。「高専=5年」というイメージで進学先を選ぶと、実態はかなり違うことになります。多くの学生が「5年で終わるつもりで入学したけれど、結局7年間学ぶことになった」というのが現実のようです。
都立産技高専:コースによって進路が全然違う
所在地:東京都品川区・荒川区/学科:ものづくり工学科(コース選択制)
都立産技高専で面白いのは、選ぶコースによって進路の傾向が大きく変わること。令和5年度のデータでは:
- 情報通信工学コース:進学61名 vs 就職23名 → 進学率約7割
- 機械システム・生産システム工学コース:就職が進学の3倍前後
進学先の内訳(令和5年度・123名):
| 進学先 | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| 国立大学 | 57名 | 約46% |
| 公立大学(都立大など) | 12名 | 約10% |
| 私立大学 | 17名 | 約14% |
| 本校専攻科 | 36名 | 約29% |
| 専修学校 | 1名 | 約1% |
同じ学校でも「5年で就職」する人が大半のコースもあれば、「7割以上が進学する」コースもある。世間がイメージする「高専生」が、実は学校内ですら一括りにできない多様な進路を選んでいることがわかります。
明石高専:「5年で就職」は3人に1人だけ
所在地:兵庫県明石市/学科:機械・電気情報・都市システム・建築の4学科
ここで取り上げたいのが明石高専です。令和7年度の本科卒業生168名のうち、就職した人は57名(約34%)。残り約64%は進学しています。
進学先の内訳(107名):
| 進学先 | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| 国公立大学 | 79名 | 約74% |
| 私立大学 | 8名 | 約7% |
| 海外大学 | 1名 | 約1% |
| 本校専攻科 | 19名 | 約18% |
明石高専を見ていると、「高専は5年で就職する学校」というイメージから完全に外れていることがわかります。3人に2人が大学や専攻科に進む学校なのです。
主な進学先(令和7年度・合格者数)
公式PDFから令和7年度の主な合格実績を抜粋すると:
- 京都大学 1名
- 大阪大学 13名(合格者15名)
- 神戸大学 4名(合格者11名)
- 東京大学 4名(合格者4名)
- 東北大学 1名(合格者2名)
- 九州大学 3名
- 筑波大学 5名
- 京都工芸繊維大学 5名(合格者8名)
- 岡山大学 2名(合格者6名)
- 広島大学 3名(合格者4名)
- 奈良女子大学 3名
- 熊本大学 2名(合格者4名)
- 横浜国立大学 3名(合格者5名)
- 長岡技術科学大学 4名(合格者9名)
- 豊橋技術科学大学 4名(合格者6名)
「旧帝大」と呼ばれる京大・阪大・東北大・九州大、難関国立の神戸大、筑波大、横浜国立大などへ、毎年安定して合格者を出しています。関西を中心に、難関国立大学への進学が日常的に行われているのがわかります。
進路としては「進学校」と表現したほうがしっくりくる実態があります。
なぜ「5年で就職」イメージとズレているのか
高専が設立された当初(1960年代)は、たしかに「実践的技術者をいち早く社会に送り出す」という設計でした。当時は卒業生のほとんどが20歳で就職していたはずです。
でも今、高専は変わっています。大学への編入制度が整備され、専攻科が設置され、難関大学院への進学ルートも一般的になってきました。結果として、「5年で終える人」より「7年(専攻科)」「7年(大学編入)」「9年(大学院まで)」というルートを選ぶ人が増えてきました。
つまり、高専は「5年制」ではあるけれど、「5年で完結する学校」ではなくなってきているわけです。
このギャップに気づくと、進路選びの視野が広がる
「高専は早く就職できる学校」というイメージだけで判断すると、こんな誤解が生まれます。
- 「大学に行きたいなら、普通科の高校に行くべき」
- 「高専に行くと、大学進学の選択肢がなくなる」
- 「高専生は20歳で社会に出る」
でも実態は違います。高専に進学しても、半分以上が進学を選ぶ学校もあるし、22歳・24歳で社会に出るルートも普通にあります。むしろ、専門知識を早くから身につけた上で大学に編入できるので、一般的な大学受験よりも難関大学に入りやすいという側面さえあります。
ひとつだけ注意点:文系への進路はかなり限られる
ただし、進学の選択肢が広いといっても、進学先はほぼ理工系に限られるという点は押さえておく必要があります。
高専で学ぶのは工学・技術系の専門科目が中心。一般教養として国語や英語、社会も学びますが、大学受験向けの「文系科目」を体系的にやるわけではありません。
そのため、大学編入も基本的には「工学部」「理学部」「情報系」など理工系の学部が中心です。経済学部や法学部、文学部などへの編入制度を設けている大学もありますが、選択肢はかなり狭く、編入試験の対策も自力で進める必要があります。各校の進学先データを見ても、文系学部への進学者はほぼゼロです。
「将来の進路はまだ決めてないけど、理系も文系もどっちも可能性を残しておきたい」という人にとっては、高専は不向きな選択肢かもしれません。中学生の段階で『理工系で行く』という方向性が決まっている人が、高専に向いています。
まとめ
高専進学を考えるとき、「5年制だから5年で社会に出る」と決めつけてしまうと、実態と大きくズレた判断になりかねません。
学校ごとに進路の傾向は違いますし、同じ学校内でもコースや学科で違います。卒業後の選択肢——5年で就職、7年で大卒、9年で院卒——のうち、どれを選ぶかは入学時に決めなくても大丈夫。入ってから考えても遅くないのが、今の高専の柔軟さです。
ただし、理工系という大きな枠は5年間ずっと続きます。「就職か進学か」は後から選べても、「理系か文系か」は入学時点でほぼ決まる進路選択になります。
世間のイメージと実情のズレ、そして高専ならではの「向き・不向き」を知っておくと、より自分に合った進路選びができるはずです。
参考リンク
高専に向いている子、向いていない子
高専に入って知った6つのこと【その1】授業と先生のリアル
高専の寮生活とお小遣いのリアル|月1万円は足りる?親目線で解説


コメント